ユリイカ1月号『この小劇場を観よ2013』発売にまつわるエトセトラ

ユリイカ2013年1月号 特集=この小劇場を観よ2013

ユリイカ2013年1月号 特集=この小劇場を観よ2013

ユリイカ、満を持して2005年に続き7年ぶり2度目の小劇場特集です。永久保存版だよ。
私は論考と巻末の「小劇場ガイド」を担当しました。私が商業誌に初めて書かせてもらったのがこの05年度版のユリイカの小劇場特集でした。7年ぶりに育ててもらった母校に帰るみたいな感じで、とりわけ思い出深いです。
ガイドについて。団体の紹介はもちろんのこと、05年版と比べて書き手の層が厚くなったことを実感しました。この団体推し!という熱い書き手たちが、おさまらない胸の思いをいかにクールに千字にまとめてきたか、その競演をどうぞご覧ください。劇評を書きたい人やライター志望の人たちにも得るところ大だと思います。

雑誌の特性上、時間とか紙幅とか色んな制約があり、あれがない、これがないというのはどうしても出て来てしまいます(網羅性を求むる人は2月発売の「演劇最強論」をどうぞ!)。書き手の層が厚くなったという前述の話の一方で、私の人脈不足もありますが、入れたいのに書き手が見つからずに泣く泣く諦めた団体もありました(個人的には燐光群と少年王者館は入れたかったです)。裏を返せば、入ってる団体は、結果として書き手の方たちにこの団体を書きたい!!という熱い思いを抱かせるような団体だったということもあります。掲載団体のなかには、未見の私を説き伏せるようにして面白さを語ってくれた信頼できる書き手の方による推し団体もあります。

そんなわけで、今回入ってなかったとお嘆き/お怒りの団体の皆様、3度目の特集では必ずや・・・・?

論考は小劇場における<女>のサバイバルという内容です。ガイドに持てる時間と力の8割を投入したため、論考は突貫工事で粗削りなものになってしまいました。もう少し丁寧に説明すべきところや、補足すべきところなど多々あります。色々と問題が多いと思いますが、これを踏み台、たたき台にして何か実りある議論が生まれればいいと思います。

確かにフェミニズム的視点を導入することで舞台芸術の豊かさが抹消されてしまう部分はあると思います。逆に言うと、論考のなかのジェンダー的な観点での評価や批判が、そのままそっくり作品の評価や批判とイコールではないです。例えば、もしかしたら批判的に読まれる?かもしれませんが、私の2012年ベスト舞台は黒田育世さんの『おたる鳥を呼ぶ準備』でした。論考はジェンダーの面からみた作品論なので、その意味では一面的にしか作品を語れていません。
クィア批評的な視点のほうが(男女の二分法を越えるトランスセクシャルな性の表象の可能性をみる)、そうした豊かさをすくい取るには有効だと思いますが、日本の小劇場はまだ、フェミの視点に立つ必要があるのかな、と思っています。女であることというのをどう考えるべきなのか、女をウリにするのでもなく、女じゃないフリをするのでもなく、ということをもう少しみんなで考えていきたいなあと。

時間も紙面もないなかで<女>の観客論、作り手論(演劇とダンス)、俳優論と全部いっしょくたに書こうとしたので、かなりスケッチ的な試論ですが、機会があればどこかでそれぞれをもっと丁寧に膨らませてみたいと思います。

目次:
【対談】
いま小劇場演劇であるということ 時代的に、空間的に / 野田秀樹岡田利規
笑うひと、笑われるひとを一体に包む演劇 / 岩井秀人西加奈子

【小劇場の現在、そしてオルタナティブ
続・一〇年代の上演系芸術 「ドメスティックな抜けてしまった底」を修復するために / 内野儀
「小劇場演劇」の未来 「関西」から見えること / 森山直人
暗闇のファイナル・ガールズ 小劇場で女はいかに生き残れるか / 小澤英実 

【インタビュー】
マイナーであることの矜持と愉快 遊び場としての小劇場 / 前田司郎 聞き手・構成=さやわか
喪失と獲得をリフレインして、もっと遠くへ マームとジプシーの旅の軌跡 / 藤田貴大 聞き手=編集部

【変貌する現代演劇】
「表象を使い倒せ!」 今どきの新しい演劇について / 桜井圭介
「演劇を演劇する」とはどういうことか  / さやわか
平田メソッドは初音ミク!? 「関係性の演劇」から「ロボット演劇」へ / 中西理
岸田國士戯曲賞とポストドラマ演劇 岸田國士戯曲賞選定委員会・和久田褚男氏(白水社)に聞く / 
望月旬々・和久田褚男

【マームとジプシーと詩と批評】
cocoon 『cocoon』を舞台化するための、まずは第一稿 / 藤田貴大
Aと劇場のほとりで マームとジプシー、演劇の臨界 / 椹木野衣
日曜の朝 「マームのジプシー」のリフレインと場所 / 細馬宏通

【座談会】
F/Tを/から考える アジア・ポスト3・11・ポストドラマ / 
鹿島将介+川口典成+作者本介+谷竜一+三野 新+岩城京子+藤原ちから 司会=佐々木 敦

【未知のほうへ、未来のほうへ】
私の(偏)愛する劇団たち / 佐々木敦
演劇の時間 『タイム』から『アンティゴネーへの旅の記録とその上演』へ / 山田亮
もう「きみ」とは呼べないきみに別れを告げるために 
渋谷慶一郎岡田利規『THE END』と切断のプロトコール / 神田川雙陽

【資料】
この劇団がすごい!2013 / 編=小澤英実

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今年読んで面白かったものの5本の指に入ります。高慢と偏見とゾンビに続く第二弾だけど、それよりもはるかに面白かったです。ゾンビは出て来るだけで面白いので物語としては反則だけれど、こちらは「その時歴史が動いた…」的な歴史小説の面白さが丁寧に書かれてるので。才気だけで書いた高慢と偏見に比べて、きっちりリサーチと構成を練って書かれた感じもしてよいです。表紙がちょっとBLっぽいけれど、そうとも読めるけどそんなにBLではないです。かなりスリリングで一気に読んでしまいました。ティム・バートン監督で映画化されるようなので、これからもうひとブーム来ること必至です。

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待望の!待望の!邦訳!!嬉しい・・・
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フィリピンのナボコフ、のような二十代の若い書き手のメタディテクティブ・ストーリーといった感じみたい。

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この一年はこれに捧げましたという翻訳がやっと12月21日に出ます。あと一週間です。また発売されたら書きますが、ぜひぜひ冬ごもりのおともに。アマゾンの紹介文のところに「日々の暮らしの喜怒哀楽を静かに語り、胸を打つ」とかそれっぽいことが書かれていますけど、全然そんな話ではない、というかそれだけではない話です。みんなの感想が聴きたい!ぜひお手元に取ってください。はてなにまだ書影でないけど下クリックしてアマゾンに飛ぶと書影もありますです。

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『村上春樹全小説ガイドブック』

村上春樹 全小説ガイドブック (洋泉社MOOK)

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翻訳についての短い文章と春樹が訳した数名の作家について書かせていただきました。上のと合わせて、昨年末は寝ても覚めても村上春樹漬けの一ヶ月で少しトラウマになりました…。類書はあれど、これは信頼できる書き手による、全小説のエッセンスがコンパクトにまとめられたカラフルな良書なので、村上春樹について何か思うところのある方はぜひ一冊持っていてください。

ユリイカ『村上春樹特集』

もう去年のことになりますが、メールインタビューと論考を書かせていただきました。直前にインタビュー集が発売され、考える人のロングインタビューなどもあり、質問する前から答えがすべて自分で思いついてしまうような状態のなか、なんとか新しいことを聞こうとしたのですが難しかったです。論考のほうは時間切れで詰めが甘いという自覚があるんですが、三島との関係についてリンギスを引いて書いています。三島と村上春樹についての言説は手垢が付いているようでまだまだ深く考察されていないと思うのでそのとっかかりとして意義があると思っているのですがどうでしょうか。

『アンセックスミーヒア』公演のお知らせ

2月14日から横浜でスタートするTPAM(国際舞台芸術ミーティング、元国際芸術見本市)ショーケース公演、ミズノオトカンパニー『アンセックス・ミー・ヒア?』(『マクベス』の翻案劇)にドラマトゥルクとして参加しています。

2/19−21。2月19日のアフタートークゲストは、じゃじゃーん、湯山玲子さん!。 詳細はこちら。http://notone.taf.co.jp/ 観に来てくださいね。お知り合いの方は私にメールやtwitter経由のDMなどくださっても大丈夫です。予約フォーム。お待ちしています!!!